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障害者自立支援法に関する論説

障害者自立支援法は天下の悪法 機関誌 第7号 2007.9.2
障害者自立支援法施行1ヶ月が経って   機関誌 第6号 2006.5.25
障害者自立支援法をめぐって 機関誌 第5号 2005.8.25
障害者福祉の重要な曲がり角 機関誌 第4号 2004.12.14

機関誌「明日のために」 論説 機関誌「明日のために」 論説


障害者自立支援法は天下の悪法
(機関誌 第7号 2007.9.2)


1.「障害者自立支援法」が2006年4月1日より施行されて1年がたちます。
 1年たって、この法律が「障害者の自立を支援する」どころか「阻害する、立ちふさがる」ものであることがいくつものことがらから明らかになっています。

2.2006年度のコンピュータ教室が始まってすぐ、教室に行っていただいている講師の方々の「支援法介護費用1割負担」が起こりました。
 「障害者自立支援法」は障害者の受けているのは「福祉サービス」であるから、そのサービスの量に応じて、その1割を障害者自身が支払いなさい、というものです。車いす障害者や視覚障害者がコンピュータ講師として外出するとき、その介護費用のうち1割を事業所へ払い込まなければなりません。

 事業としての講師活動ですから、その1割負担は法人が支払うこととし、かかった負担を届け出ていただきました。しかし、遠慮があったりで必ずしも全額法人負担とは出来ていません。
 介護が必要な重度の障害者がコンピュータ教室の講師など社会的活動をするとき、自分で自己負担1割をかかえるか、あるいは活動先に負担してもらわなければならなくなりました。重度障害者の社会活動は余分なものとでも言うのでしょうか。

 社会的自立を促進するといいながら、それにたちふさがるのが「障害者自立支援法」です。
 実は重度の障害者ほど多くの介護を必要としますから、1割負担は、重度の障害者ほど重い負担となります。こんな法律があるでしょうか。

3.わたしたちはたまりかねて、市内の障害者への生活調査を始めました。
 2007年3〜4月で230名の障害者の負担は1年前と比べて「変化なし38%」「増えた59%」でした。さらに「利用時間や回数を減らしましたか」に対し「かなり減らした12%」「減らした30%」でした。すなわち4割の人が、福祉施策を使うのを減らして負担を増やすまいとしているのです。そして5〜6割の人が負担が増えても使う福祉施策の量を減らしていません。なぜなら、それは生きていくうえで必要な命や生きがいに係っている行動だからです。

 「障害者自立支援法」は障害者が生きていくこと自身に「負担料」を支払わせているのです。

4.さらにその生活調査で平均44.2歳230人の障害者本人の月平均収入が94,371円であることも明らかになりました。
 10万円に満たない収入状況の中から1割負担をさせようというのです。

 厚労省もそれではとおらないと見ますから、障害者と同一世帯(親・兄弟)から負担させることとし、その収入状態により、負担させる上限額を生活保護世帯0円から15,000円、24,600円、37,200円としました。
 法律上は障害者の就労対策をお題目として掲げてありますが、どこの省庁も本気ではありませんから、実効ある障害者就労対策はなんら実施されていません。

 収入の道も閉ざしたまま、重度障害者の生きていくに必要な施策に負担料を取ろう、取れなければ、親兄弟から取ろう、というのが「障害者自立支援法」なのです。

5.この結果、世帯全体として負担上限のある障害者層(15,000円、24,600円、37,200円)に何が起こったのか。
 昨年5月21日、私たちの所属する尼崎市身体障害者連盟福祉協会の総会が開かれました。その折り、いつもなら100名を越える参加者があるのですが、50名ほどの出席者でした。
 「えっ、組織のピンチ」と驚いたのですが、総会以後伝わってくることは「1割負担をしないといけないから、病院とか市場の買い物とか生活に必要なものを優先させている。連盟の総会は出席しなくても何とかなるから行かなかった。」という声でした。
 改めてがく然としました。負担軽減に1年間運動を続け、総会の意義を訴え、今年6月3日の大会はようやく110名に復しました。

 しかし同じことは続いて起こっています。この8月25日、26日に尼崎市肢体障害者福祉協会の「伊勢志摩への一泊バス旅行」が行われたのですが、申込者がいつもの半分くらいの40名でした。リフト付きのバスも借り、最近は2年に1度の実施ですので、皆さん楽しみにしてきた行事なのです。
 旅行費用1人2万円ですから、例えば外出ヘルパー派遣を事業所に依頼して旅行参加する人は、従来なら2人分4万円をなんとか工面して参加していたのですが、自立支援法以来、2日分の介護費用1割負担分1万円ほどがさらに加わります。おおよそ5万円です。障害者基礎年金1級月額82,000円ではもう負担しきれない金額です。

 40人であっても助け合ってとにかく楽しくやっていこうと実施しましたが、障害者の恒例のレクレーション行事も危うくなっています。

6.さらにこの「障害者自立支援法」施行は、障害者の人間としての尊厳を徐々にむしばんでいます。
 20歳をすぎた大人でありますから障害者の収入認定は本人だけで当たり前のところを、同一世帯の収入全部を合わせるとなりました。本人が払えないなら親兄弟に払わせようというのです。障害者は自立した一人の人間として尊敬されるのではなく、親兄弟の扶養者としてきづつない思いをまたさせてしまうのです。

 またその収入や資産認定のとき、世帯の預貯金通帳のコピーまで要求します。親が自分の死後子供のためにと残した貯金が500万円以上あれば、負担軽減はできないというのです。それを全部使い果たしてからお出でなさい、というのが「障害者自立支援法」の施行内容なのです。

 私たちは自衛の手段としても、一人の独立した人間としてみてもらうため、同一住居であっても「世帯分離」を進める運動を始めています。

7.「障害者自立支援法」は、障害者だけでなくその周囲へ大きなマイナスをもたらしています。
 「障害者自立支援法」は外出移動介護などの一番伸びの激しい事業を「地域生活支援事業」と名づけて県や市の実施する事業としました。

 従来、その施策量に応じて出していた補助金を、まず全国の一定額を定め、地方自治体の人口などに応じてそれを振り分け、あとはそれぞれの裁量でやりなさいと手を離しました。

 障害者の生活に直結している自治体は施策を後退させるわけに行かず、多くの自治体が自己財源からの独自施策を実施しました。尼崎市は移動介護を従来どおり実施するために3億4千万円の追加予算を背負いました。

 また「福祉サービス」を担うとされる事業者・施設も同様でした。「障害者自立支援法」で定める新しい報酬単価はこの1年間変更の加えられるたびに減らされてきました。さらに定員や設備補助など削られる一方でした。

 多くの事業所や施設で、職員の退職や募集しても応募がない、労働条件や賃金が日増しに過酷になるという現象が起きています。
 生きがいだけでは暮らしていけない、結婚する生活費のめどもたたないという悲鳴を厚労省は分かっているのでしょうか。

 これはもはや「福祉基盤の崩壊が起こっている」という状態です。「障害者自立支援法」がそのきっかけとなっているのです。

8.このような状態が1年続き、与党内からも見直しの声や、地方自治体・地方議会から多くの意見書があがりました。

 最初後ろ向きの報道だったマスコミも、障害者の生活と近かった記者たちの中から、「障害者自立支援法」の理不尽さを記事にし、特集番組を組むことが始まりました。
 福祉の切捨てが起こっていることに直視せざるを得なくなったのです。

 そしてついに、施行後わずか1年もたたずに、厚労省は上限負担を、収入や資産の制限をつけ、いかにも恩恵的にでしたが、1/4に緩和する手直しを発表しました。

 しかしこの緩和策でも、負担上限まで届かない障害者は、同じような仕打ちの中で施策を利用するたび1割の負担額を支払わされていることが今も続いています。

9.このような理不尽な「障害者自立支援法」の施行の中で、逆に私たちは大きな前進をしました。
 中央でもこれまで共闘することの少なかった主要障害者団体がひんぱんに共同の声明を出すようになりました。

 もちろん尼崎市でもここ10年ほど意見や動き方の違いをこえて連携をしてきた障害者団体が話し合いを続け、陳情書などに次第にその輪を広げていきました。

 また今回の「障害者自立支援法」施行が地方自治体にしわ寄せしていることが明らかでしたから、その緩和策を尼崎市に求めるにしても、市民の税金の使い方への訴えとして、尼崎市議会各会派とも緊密な意見を交換し連携を取ることが出来るようになりました。

 法律そのものを押し返す力はまだありませんが、これ以上追い込めないでほしいという、自治体に出来るぎりぎりの緩和策を取らせる道筋が私たちのものになりました。市民運動としての道筋が見えてきました。

 しかしこの「障害者自立支援法」を成立させたのは国民の多数の意思を受けた国会であることを見落とすわけにはいきません。

 いったんは参議院で廃案となっていたこの法案を、「痛みを分け合う」と明言し、福祉を後退させ景気を回復させる、という方向を明らかにした小泉内閣を、衆議院選挙で6割の国民が支持し、もう一度法案上程され可決された法律が「障害者自立支援法」であることを見落とすわけにはいきません。これもまた「議会民主主義多数決」によって通過した法律なのです。

 市民・国民に「障害者自立支援法」が「天下の悪法」であることを伝え、この根本を変えていく力は私たちが発揮せねばなりません。障害者団体が連携し、「障害者自立支援法」の理不尽さを少しでも切り崩す活動から始めましょう。

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障害者自立支援法施行1ヶ月が経って
(機関誌 第6号 2006.5.25)


1.尼崎市の障害者運動が「有力議員にお願いする」「障害福祉課にお願いする」という「お願い運動」を脱し、「お願いではなく要求運動をする」「直接障害者が動き意見を述べる」「市内障害者の組織を超えて手を結ぶ」という方向を定着させてもう15年ほどになるでしょうか。
 広くみんなで動いたのは「外出の問題」でした。歩道に障害物があって車いすが通れない、入口に階段があってスロープがない、駅に階段かエスカレータしかない、バリアフリー撤去の運動が続きました。「たとえ全額尼崎市が負担してもエレベータは設置しません。一駅にでもエレベータを付ければ全部の駅につけなければならなくなりますので」と言い放ったJR西日本が相手だったときもあります。
 2006年3〜5月の私達も参加した阪神南ユニバーサルデザイン調査では、3市の阪神・JR・阪急全鉄道駅35駅のうち7割の26駅が車イス障害者が乗降できる駅となっています。10年前の調査では3割であったことを思えば大きな進展です。

2.同時に進めたのが外出介護の問題でした。親兄弟の付き添いでしか外に出られない、一泊旅行など夢、という時期、無償のボランティア活動と連携して外出を始めました。
 神戸ポートピアランドへ一人ずつの介護者を頼んで楽しいお出かけをしたのが最初でしたでしょうか。その要望が実を結んで、公費によるガイドヘルパー派遣制度が生まれました。年々範囲を拡大させ、家族の付き添いがなくても一泊旅行に介護を派遣できるようになりました。公的な外出、病院などに付き添ってもらうということだけでなく、花見に出かける、街へ買い物に出かける、慶弔の席にでる、東京などへ遠距離介護ができる・・・と範囲を広げていきました。
 その中で「労働文化センター」の若い障害者グループが、「介護人は障害者が指定する」という画期的な「全身性マヒ者介護制度」を実現させていきました。そうした中で、郊外で集団隔離された施設で暮らすのではなく、尼崎市内のその街中で暮らしたい、として「自立生活」の運動が一気に広がりました。
 今、市内に障害者小規模作業所は60ヶ所あり、地域と結びつきながら、地域づくりに力を出し始めています。
 1975年の国連総会決議にあるように「障害者は、その障害の原因、特質及び程度にかかわらず、同年齢の市民と同等の基本的権利を有する」すなわち「自由に外出し」「地域に住む」ことがあたりまえになるのに、30年かかりました。

3.積み上げてきた自立生活を阻害する「障害者自立支援法」の登場
 堰(せき)をきったようにひろがる障害者の「同年齢の市民と同等」の生活、その福祉費用額は政府の思惑を超えていました。2年間300億円という追加予算を組まざるを得なくなった政府は、福祉施策の抑制と、障害者への負担増を政策の方向としてあげました。そして2005年2月「障害者自立支援法」を提出しました。
 この法律は「障害者の地域での自立を支援するため就労対策をかかげ、地域生活を支援する施策を、身体・知的・精神障害者に対して一本化する体系」が唄われています。その制度安定を図るため、「利用量に応じた一律の障害者負担(応益1割負担)」と「全国水準を決めそれ以上は市町村行政の独自負担とさせる地方まかせ」が打ち出されていました。
 重度な障害者ほど重い負担を強いるというこれまでとは正反対の提案には当然ながら大きな反対が起こりました。
 2005年8月、多くの反対や疑問の動きで審議が進まなかった法案は、国会解散の中廃案となりました。しかし同年9月自民党の圧勝により、10/31「障害者自立支援法」が成立しました。
 その後、行政はその実施へなだれ込みを始めました。重度障害者が外出介護ヘルパーを事業所に頼んで派遣してもらったときその総費用は1時間4,830円です。もし月100時間必要な重度障害者であれば総費用483,00円、1割負担として障害者には48,300円が請求されます。重度な障害者に負担できる額ではありませんので、厚労省は負担上限額を設けることとなりました。しかしこれであっても「月額82,000円だけの障害者基礎年金(1級)受給者に、上限24,600円まで負担させる」施策なのです。
 障害者が血のにじむような運動で築いてきた「外出の自由」と「地域生活の自立」が今危機に瀕しています。
 2005年11月、市内の障害者団体の6つが手を携えて統一陳情書を議会に提出しました。
 「支援法が施行されることによる障害者の負担増を、新たな尼崎市の財源から捻出して上積みすることがむずかしいことは、陳情者としても承知しています。しかし、今ある予算を削って障害者の負担に置き換えることまではしないでほしい、血の通った地方行政であってほしいと願っています。また支援法の施行に当たっては、さまざまな再編が行われますが、支援費の運用によってようやく地域で自立生活を送れるようになった障害者を追い詰めることのないよう、支援法の枠内での最大限の運用を望みます。」
と予算の保持、柔軟な対応を陳情しました。
 予算編成時までずっと「従来の予算編成と同様にしてあるから」と説明してきた尼崎市行政は、ふたを開けると3億7000万円の減少予算を組んでいました。障害者に負担を強いる「支援法」は行政の負担額を節約したのです。しかも尼崎市の負担する一般財源予算額も同様に減少させていたのです。
 なぜそのときに、障害福祉課や市長は「障害者の要望も一致して強いし、減少差額が出来たのでそれを負担軽減にまわしたい」として、伊丹市のような7割減免までと行かなくても何らかの尼崎市独自の負担軽減策を取ることを起案しなかったのでしょうか、残念でなりません。

4.やはり「障害者自立支援法」は悪法だ!
 尼崎市で国の言うがままに支援法が実施されて1ヶ月半、心配していたいろいろなことが口伝えに聞こえてきます。
 A事業所では3月から4月で、外出介護派遣総額が2割減少したそうです。減少させなかった方がいることを考えると何人もの方が、4割5割外出を控えたことになります。
 B作業所では、2名の方が世帯分離をして「負担なし」となる生活保護をとりました。
 C施設では、4月末の負担分請求のとき、従来より1万2万多い金額につらい思いで請求通知が出されました。
 D事業所では、登録ヘルパーが2人相次いでやめられました。多くの事業所で、追加募集をしても、応募がぱたっと止まっています。職探しの世論は、福祉の流れに敏感なのです。
 Eさんのところに来た障害程度区分調査員(障害福祉課員)は、「一泊旅行には派遣できません」「病院への介護は行きと帰りだけです」「市場へ行くときも同じです」と説明しました。尼崎市では従来柔軟に対応してきたことを話し、持って帰ってもらって、ようやく和らぎましたが、これまでの障害者との積み重ねを捨てて、国の基準に沿った硬直した対応をとるのでしょうか。
 F.各地で障害者を抱えた家族で心中、心中未遂が起こっています。4月からの負担増を苦にしたとの報道です。苦しい家計の多い尼崎市でいつおこっても不思議でない、と不安です。
 一方、吹田市が5月議会に8000万円の負担軽減の補正予算を上程するニュースが入りました。障害福祉課のコメントとして「財政は苦しいが障害者の暮らしを守る対策が必要と考えた」と出ています。  待っていれば尼崎市行政が何かしてくれるだろうというのはもう幻想です。例えば、障害者自身が小規模作業所の実情を聞き取り、どんな施策が必要で、何億の予算が必要なのかをまとめ、議会・市民に理解を求め、市長・行政に要求していく、そういう情報分析・情報発信をしなければならない時代がきてしまったようです。

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障害者自立支援法をめぐって (機関誌 第5号 2005.8.25)


1.8月8日、衆議院解散を受けて参議院厚生労働委員会で審議中であった「障害者自立支援法案」が廃案となりました。
  この法案には、これまでばらばらだった障害者福祉施策の統合・体系化を図ること、精神障害者の施策への組み入れ、障害者雇用の充実などがうたわれていました。
  しかし同時に、このままでは財政的破綻におちいるとみる支援費制度を立て直し、福祉施策全般の税金負担を減らすための、障害者当事者、家族への負担増加、ガイドヘルパー・手話通訳派遣事業などの市町村への事業委託が盛り込まれていました。
  しかもそれには、障害者全員に対する1割負担、障害者当事者が負担に耐えないときは生計を同じくする親兄弟への負担が明文化されていました。さらに具体的な実施要綱は、そのほとんどが厚生労働省の条例で「後に定める」というものでした。
 障害者の高負担にならないよう配慮する、と答弁があっても実際のところどの程度になるのかは、条例が交付されてはじめてわかるという不透明なものでした。

2.したがってこの法案が突如示された1月25日には、ほとんどの団体が疑問符を投げかけました。全国各地で、尼崎でもたくさんの「障害者自立支援法についての学習会」が開かれました。しかし学習すればするほど、掲げる理念と障害者高負担とのギャップ、ほとんどの実際が法案だけではわからない、厚生省の資料によると〜になりそうだ・・、という不安だけが募る結果でした。
  たとえば実際の障害者負担はどうなっていくのかという問いには、いつも厚生労働省配布資料から次の図が使われています。



 本当に実施時の負担上限は40,200円なのか? 将来その上限は上がることはないのか? 低所得層の所得はいくらぐらいを想定しているのか? という切実な問いには、厚生労働省企画官すら答えられませんでした(2005年4月24日兵庫県集会)。 まして学習会に来てもらった自治体の障害福祉担当者は、「通達がきてみないことにはわからない」というのが本音のところでした。

3.法案審議のわずか1ヶ月前に示されたこの「障害者自立支援法案」は全国の障害者当事者・家族・関係者に大きな不安を呼びました。
  中央では6月24日には、日本身体障害者団体連合会、日本障害者協議会、DPI日本会議、日本盲人会連合、全日本聾唖連盟、全国脊髄損傷者連合会、全日本手をつなぐ育成会、全国精神障害者家族会連合会による共同声明が出され、「障害のある人の地域生活の確立のために、真撃な協議を継続され、障害当事者に納得のできる結論を出されること」が強く求められました。
  しかし衆議院での原案可決が予測される6月末、対応は二つに分かれました。「支援費制度の財政破綻に対する緊急措置であり、原案の修正と運用上の配慮、政令・省令等の内容へ期待しながら、予算関係法案として、廃案にはできない」とする考えと「自立を妨げる法案であり廃案とすべきだ」という意見に分かれました。
  以後はふたつの行動がとられ、2月23日から  7月13日まで衆議院厚生労働委員会での参考人意見陳述などを経た討議がなされ、賛成多数で可決、7月15日衆議院本会議可決、参議院へ法案送付、となっていました。
  改めてその賛否両論が参議院厚生労働委員会で展開されようとした矢先、郵政民営化法案参議院否決によって、委員会で「廃案」とすることで同意され、現在、障害者自立支援法案は廃案となっています。
  このとき不透明のまま可決された衆議院厚生労働委員会にあって、異例ともい言える11項目にわたる付帯決議の文章が、法案の欠落部分を雄弁に物語っているように見えます。


   障害者自立支援法案に対する附帯決議(要旨)

  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

一 障害者の範囲の検討については、障害者などの福祉に関する他の法律の施行状況を踏まえ、発達障害・難病などを含め、サービスを必要とするすべての障害者が適切に利用できる普遍的な仕組みにするよう検討を行うこと。

二 就労の支援も含め、障害者の生活の安定を図ることを目的とし、社会保障に関する制度全般についての一体的な見直しと併せて、障害者の所得の確保に係る施策の在り方の検討を速やかに開始し、三年以内にその結論を得ること。

三 障害福祉サービス及び自立支援医療の自己負担の上限を決める際の所得の認定に当たっては、障害者自立の観点から、税制及び医療保険において親・子・兄弟の被扶養者でない場合には、生計を一にする世帯の所得ではなく、障害者本人及び配偶者の所得に基づくことも選択可能な仕組みとすること。また、今回設けられる負担軽減の措置が必要な者に確実に適用されるよう、障害者及び障害児の保護者に周知徹底すること。

四 市町村の審査会は、障害者の実情に通じた者が委員として選ばれるようにすること。特に障害保健福祉の学識経験を有する者であって、中立かつ公正な立場で審査が行える者であれば、障害者を委員に加えることが望ましいことを市町村に周知すること。また、市町村が支給決定を行うに当たっては、障害者の実情がよりよく反映されたものとなるよう、市町村職員による面接調査の結果や福祉サービスの利用に関する意向を十分踏まえるとともに、不服がある場合には都道府県知事に申立てを行い、自ら意見を述べる機会が与えられることを障害者及び障害児の保護者に十分周知すること。

五 国及び地方自治体は、障害者が居住する地域において、円滑にサービスを利用できるよう、サービス提供体制の整備を図ることを障害福祉計画に十分に盛り込むとともに、地域生活支援事業として位置付けられる移動支援事業、コミュニケーション支援事業、相談支援事業、地域活動支援センター事業などについては、障害者の社会参加と自立生活を維持、向上することを目的として、障害福祉計画の中に地域の実情に応じてこれらサービスの数値目標を記載することとするとともに、これらの水準がこれまでの水準を下回らないための十分な予算の確保を図ること。

六 自立支援医療については、医療上の必要性から継続的に相当額医療費負担が発生することを理由に、月ごとの利用者負担の上限を設ける者の範囲については、速やかに検討を進め、施行前において適切に対応するとともに、施行後も必要な見直しを図ること。自立支援医療のうち、児童の健全育成を目的としたものについては、その趣旨にかんがみ、施行までに利用者負担の適切な水準について十分検討すること。

七 精神病院におけるいわゆる七・二万人の社会的入院患者の解消を図るとともに、それらの者の地域における生活が円滑に行われるよう、必要な措置を講ずること。

八 居住支援サービスの実施に当たっては、サービスの質の確保を前提に、障害程度別に入居の振り分けが行われない仕組みや、重度障害者が入居可能なサービス基準の確保、グループホームの事業者の責任においてホームヘルパーの利用を可能とすることなどについて必要な措置を講ずること。

九 良質なサービスを提供する小規模作業所については、新たな障害福祉サービス体系において、その柔軟な機能が発揮出来るよう位置付けるとともに、新たな施設体系への移行がスムーズに行えるよう、必要な措置を講ずること。

十 障害者の虐待防止のための取組み、障害を理由とする差別禁止に係わる取組み、成年後見制度その他障害者の権利擁護のための取組みについて、より実効的なものとなるよう検討し必要な措置を講ずること。

十一 本法の施行状況の定期的な検証に資するため、本委員会の求めに応じ、施行後の状況、検討規定に係る進捗状況について、報告を行うこと。

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障害者福祉の重要な曲がり角 (機関誌 第4号 2004.12.14)

 今、障害者福祉は重要な曲がり角に来ています。
  第1に政府が福祉施策の財政的重圧に耐えかねて、政策転換を図っていることです。
  第2にそれが以前と比べれば大幅に事前に情報公開され、障害者側が時に大同団結し、真っ向から意見を述べていることです。
  第3にこれらの動きの中から、私たちの目指してきた障害者の自立と平等が部分的にでも実現し始めていることです。

  第1について言えば、「措置制度」から、「契約制度」に変更した「支援費制度への移行」は、これまで役所が行ってきた福祉施策を社会福祉法人や民間団体に移行させるアウトソーシングをねらったものでした。
  ところが、大幅な支援費施行により、昨年度130億円の財源不足、今年度は250億円の不足と試算されています。
  急遽考え出されたのが、介護保険に支援費事業を統合させ、財源を税金から保険収支でまかなおうというものでした。障害児から壮年障害者までを介護する制度だから、若年層からも介護保険料を取りたい、とする厚生労働省の「統合案」でした。
  1年も経たないうちから言い出された「統合案」は、障害者団体当事者及び保険料の一部を負担する企業団体からも、数々の疑問と反対意見が出され、強行が出来なくなり、当面見送りとなりそうです。
  これに懲りず、突然10月12日、次の案として出てきたのが「今後の障害者福祉施策について(グランドデザイン案)」です。
  ちなみに「グランド-デザイン」を辞書で引いてみますと「大規模な事業などの全体にわたる壮大な計画・構想」とありました。
  これらの政策転換ではすべて、福祉施策経費の大幅な削減が計画されています。
  支援費への移行の際は、支援費支給に際して、ホームヘルプ派遣時間の上限を月120時間(1日4時間)に決めることを突然発表し強行を図りました。
  統合問題では、介護保険では当たり前とされる支給上限(それを越えれば全額自費負担)を支援費事業に適用しようとします。
  今回の「グランドデザイン案」では、従来の支払い能力に応じての「応能負担」から、サービスの料に比例して何割かの負担を求める「応益負担」が大きな柱としてあげられています。また、病気がちの障害者に対する医療福祉を大幅に削減する計画が入っています。
  つまるところ、いろいろと支出を削ってきたが、いよいよ福祉施策を削ることに取りかかっているということです。

  第2は、厚生労働省のホームページに、社会保障審議会の資料が同時に掲載され、その大部の提議書を、全国の障害者が誰でも見ることが出来るようになりました。
  これまで私たちは、政府の施策変換については新聞報道で政府発表という大まかなあらすじを聞くだけでした。それが、提出された資料そのもの、時には説明されたパワーポイントの画面そのものが見られる時代へと突入しました。
  例えば今年4/30に開かれた、日本身体障害者団体連合会、日本障害者協議会、DPI日本会議、日本盲人会連合、全日本ろうあ連盟、全国脊髄損傷者連合会、全日本手を
つなぐ育成会、全国精神障害者家族会連合会の共催で開かれた「“介護保険”と“障害保健福祉施策”の関係を考える4/30公開対話集会」で示された、厚生労働省障害保健福祉部企画課長村木厚子氏の数字やグラフ入りの資料が、次のホームページでそのままカラーで見ることが出来ます。
http://zenrenkyo.ld.infoseek.co.jp/430siryou2.PDF
全国の障害者が自らに関わる福祉施策の全貌をつかむことが出来、急ぎ討議し、意見を表明する事が出来る時代が来つつあります。
  このことは逆に、私たちが出遅れれば、「特に反対もありませんでしたから」と大手を振ってその施策がまかり通る事も意味します。
また「介護保険統合」「グランドデザイン案」について、現在、それぞれの障害者団体の見解が違っている現在の事態は、どのように障害者運動を進めていくかの、私たちの力量が問われている時代でもあります。

  第3のことは、厚生労働省としても、あたふたとした施策変更の中に、自立と平等へ向かう世界の障害者施策の流れ、国内でたたかわれてきた障害者運動の論旨を取り入れざるを得なくなっていることです。
2年前の支援費事業への移行の際、厚生労働省は「支給上限設定」による削減だけを言うわけにいかず、障害者の自立と決定、支援費事業の行政から民間・障害者団体・NPO法人への委託をセットとしました。
  私たちがここ30年ほど言い続けてきた、障害者自身が自立する施策、自己決定、さらに障害者施策を当事者に任せよ! との主張を取り入れたのでした。
  結果、障害者の支援費支給は「措置」の時代から一気に広がり、地域で生活するための「24時間介護」も部分的ですが実現し始めています。
  これまで障害者の命と通常の生活を守るため無給で24時間介護していた人たちに、介護報酬が手渡されるようになりました。
さらに持ち出しばかりであった福祉作業所、親が集まって無償で動いてきた介護グループが、NPO法人として1級ヘルパー資格を備えて、支援費事業所として経営をやりくりできる現象が生まれています。
  それは「グランドデザイン案」にも色濃く表れています。「応益負担」を言って障害者に一律の負担をさせるなら、これまで全く取り組んで来なかった「障害者の雇用」問題にふれないわけにはいかないのです。「雇用施策と連携のとれたプログラムに基づく就労支援の実施」をあげています。
  また私たちが一番願い、求めてきた「地域に生きる」施策についても「障害者の地域生活を支えるシステム」として法体制の整備をあげています。
  さらにとても不十分でした「精神障害者施策」についても、「身体」「知的」「精神」を共通にした新たな「障害福祉サービス法」によって底上げを言い出しています。
  厚生労働省が自ら言い出したこれらの流れは、もう止める事は出来ません。私たちがずっと言い続けたことを、ようやく厚生労働省が後追いをし始めたのです。

  財政についてはこう考えるべきです。
  介護保険の統合や、応益負担への移行で支出を抑えるのではなく、国民のものである国家予算の多くを福祉施策に使うことはいっこうに差し支えないと言い切りましょう。福祉に使うのが意義が少なく、道路や新幹線に使う方が有意義であるとどうして言えるでしょうか。福祉に使う予算は、結局はそこに働く人に帰るわけで、その生活費が市場で使われるのですから。
  そのような合意のできる国家を作っていけばいいのです。

  私たち障害者が変わっていくことが何よりも大事なことです。

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